樅の木に棲む



とある、おくふかの森




冬のひぐれは風と音をとかし
しらじらと青く染まる



やがてカラスの寝息をしるしに

森の町にあかりが灯る



それは、名もなき

ひそけき町



窓辺のあかりは

あたりを柔く暖め



ひらいたドアからは

甘い香りがほそくたゆたっている


時は定刻

10時10分と、30秒
今宵
この町の鳥たちが
夜空へと羽ばたく刻


かれらは
羽を鈴の音のように響かせ
ただひたすらに

隙間なく隊列を組む



この一夜のため

夜毎繰り返してきたその隊列を



いざ、月無き今宵

樅の木から羽ばたき

気高くも

ぞんぶんに美しく
且つ、かろやかに
夜空を駆けるのだ



この森を守る
心優しき
彼をのせて



夜が明ける

その時まで



凍てつく風をも

誇らしく

羽にうけながら



いずれ眩い日が差すころには

素知らぬ顔でまた

気儘な空に謳い、舞うだろう



そう、これは

樅の木に棲む鳥たちの

愛すべき

ひそけき話




Merry  christmas !






text by haru   photo by sakura


こはる日和にとける

いつかの情景、いつかの想いを綴るエッセイ

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