いとおしい日々




ママの睫毛は

しっとりとながく





笑うとさがる目尻に

ふわり、かぶさり

仄かな音をたてる





やわくとろけるその音は

きっと

あたしにしか聞こえていない





濡れたひかりがたゆたう

窓の大きな部屋





ママがあたしを抱きしめて

くーん、と

おでこに鼻を押しつけてくる





くすぐったくて

窮屈で

あたしがとっさに逃げだすと





こんどは

寝そべったあたしの足の裏を

むにむにと、

たぶんいっそう目尻をさげて

さわりはじめた





みあげた窓

はりつく雨粒が

ぱた、ぱたと滑りながら落ちてくる





おもわず手を伸ばし

右、左と追いかける





すると

「隙あり!」

と、脇をくすぐられ

あたしはきゃあ、とのけぞった





それにしてもよく降る雨、と

ママのため息が

抱きかかえられたあたしの耳にふれる





そりゃあ

あたしだって

ひだまりで日向ぼっこが

いいに決まってるけど





雨がふると

ママが家にいてくれるから





こんな日も

悪くない、と

じつは思っている





もちろん

ママには内緒のこと





だって





あたしの好きより

ママの好きが大きい方が

いっとう、いいでしょ?





するり、

腕から脱け出して




ごろん、と

お腹を見せると




ママから

やわくとろける音がした













text by haru  photo by sakura






こはる日和にとける

いつかの情景、いつかの想いを綴るエッセイ

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