ぬくもり




ぽ、と温かい




あの日

胸に抱いたあなたの体温を

昨日のことのように覚えている





むっちりとちいさな手が

ぎこちなく

わたしの頭を撫でた日のことも





まっ赤な顔で

欠片のような歯をぬらして

泣いていた日のことも





そうね

あるいは





おでこにかかる髪を

ぽやと風になびかせて

わたしの胸に

飛びこんできた日のことさえ





幾つもの日々を

まるで

昨日のことのように





けれど

思ったよりもずっと早く

あなたはわたしの背丈をこえ





たしかな思慮をはぐくみ





振り返りもせずに

あっけなく

巣立ってみせた





そして

わたしの知らぬ世界で

心を焦がし





かけがえのない人を得て





あなたもようやく

あなたの温かさに気づいたのね





もう

わたしにできることは

何もないんでしょう?





それでも





雨がやわらかな土に沁み入るように

いつかそのしずくが空へと帰るように





あのぬくもりに似たしあわせが

どうか

あなたの傍で

永く巡るように、と





呆れるほどつよく

つよく

願ってしまうのです















text by haru  photo by sakura







こはる日和にとける

いつかの情景、いつかの想いを綴るエッセイ

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